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日記

『「首都感染」後の日本』高嶋哲夫著(宝島社新書)を読んで

投稿日:2021年3月21日 更新日:

本書の初刊は2020.12.15です。書名からして恐怖感をおぼえてしまいますが、ラジオの対談番組で司会者が「評判をよんでいますね。」と語られていましたので、直ぐさま購入し読んでみました。これまで、災害を描いた小説等はミステリーかフィクションで嘘くさいという先入観をもっていましたので、本書も購入して数ページ読みその後は暫く積ん読(つんどく)状態でした。

ところが、小松左京の「復活の日」も同様、それなりに長年の取材を通し綿密なデーターに基づき書かれていることがわかったのです。でも、このコロナ禍でただ恐怖感を煽るだけではないかと考え、私的なこの「日記ページ」には載せずにいました。

改めて再読してみたところ、ある意味で知っておくことは大切ではないかと捉え載せることにしました。しいていうと著者には既に発売されている多くの著書があり、その説明部分(ピーアール?)があります。それらを含め内容についてはかなり端折ってしまいました。

高嶋哲夫:1949年岡山県玉野市生まれ 慶應義塾大学工学部卒、大学院修了課程修了、日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学 著書「メルトダウン」(講談社文庫)第1回小説現代推理新人賞受賞、「イントゥルーダー」(文春文庫)第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞、「都庁爆破」(宝島文庫)、「首都感染後」(講談社文庫)、「首都崩壊」(幻冬舎文庫)ほか

はじめに

コロナ禍は、日本の抱える問題を浮き彫りにしそれらを見つめ直す機会になりました。進まないIT化、働き方改革の流れ、東京一極集中の弊害、危機管理の甘さが露呈し、もはや科学技術大国や先進国ではないということです。

2020.4、政府の緊急事態宣言により自粛生活に入り、以後、職場ではオンライン会議やセミナーが日常化されました。学校のオンラインは間に合いませんでした。何年もかかる変化を数カ月で経験しましたが将来に繋がるかは難しいです。

コロナ禍は、感染対策が確立され、ワクチン接種が進みコロナがインフルエンザと同等と捉えられるようになり、将来、収束していくでしょう。この経験を改良発展させ未来へ通じるものとなるでしょう。しかし、コロナウイルス以上の脅威が迫っているという事実があります。

阪神・淡路大震災と東日本大震災、そして今回のコロナ禍の経験から「次なる災害」に備えなければなりません。首都直下型地震と南海トラフ地震です。避けることはできないとしても、被害を最小限に食い止めることはでるのです。以下、3点に重点を置いて書かれています。

◎コロナから見えた日本の弱点 ◎日本には大規模災害が迫っている ◎新しい日本の形の必要性

第1章 新型コレラウイルスと日本の「弱点」

『首都感染』(講談社、2010年)を書いたきっかけ

毒性の強いウイルスが世界に蔓延するという設定になっていて、いたずらに社会不安を煽ってしまうのではないかとう懸念で、現実と小説をリンクさせることに抵抗感ありました。小説の中には、医療崩壊、感染防止、遺体処理のリスク、ワクチン開発など現在のコロナからの要素が盛り込まれています。

『首都感染』を書く10年程前に、『ペトロバクテリアを追え』(宝島社2001年)という小説を書きウイルスやバクテリアについて調べ「パンデミック」という単語を知りましたが、当時はその意味を知られていませんでした。

感染症への準備ができていなかった日本

1990年代後半に、サーズ、マーズ、鳥インフルエンザは現れましたが、どれもパンデミックには至りませんでした。こうした状況で『首都感染』を書き始め、もし、強毒性のウイルスが現在のようなグローバル社会に出現したらどうなるのか。人間の移動が格段に速く人数が多くなっているので短期間で世界中に広がるのではないか。

これが『首都感染』が生まれた経緯です。韓国、台湾は10年以上前のサーズ、マーズの敬虔から準備をしていて、今回のコロナ対策に成功しましたが、日本は教訓が全く生かされていませんでした。

「感染者数」に振り回される日本

政府と国民は毎日発表されている「感染者数」と「死亡者数」に一喜一憂しています。コロナに対する考え方は人によって違うし専門家の間でも考え方や認識に幅があります。「恐れるな、しかし侮るな」ということです。感染者や死亡者の数に右往左往するのではなく、情報の公表と精査が必要です。

PCR検査を行った数と場所、感染者の年齢と病状、性別、職業などより正確なコロナ感染の経緯がわかり、統計としてまとめ的確な対処が可能です。

できることは単純明快

「感染した人はウイルスを他人にうつさない」「感染していない人は体内に取り込まない」「感染者は安全な状態に戻るまで隔離する」に尽きます。繰り返しいわれている「三密」を避ける行動を守ることが全てです。

「科学的知見」の大切さを痛感

「科学的知識の不足」やそのためには生じる風評被害があげられます。科学的に安全が示されれば、適切な対策を進めるべきです。正しい科学的知識を持ち、自分で考えることができるようになって初めて「正しく恐れる」ことができます。

貧弱な日本の危機管理能力

情報と物流のコントロールがうまく機能しなかった典型例として「アベノマスク」、検査体制が整わず十分な数の検査が行われなかったpCR検査。韓国と台湾はpCR検査を徹底的に行い、感染者の隔離を適切に行い感染を初期に封じ込めることができました。コロナ禍は今回の1度きりの天変地異ではなく、今後も起こり得る禍なので自然災害同様「教訓」にしなければなりません。

コロナが示したIT後進性

コロナによってリモートワーク、テレワークが導入され、一気に加速しました。試験的に導入してはみたが、うまく機能させることができず、結局従来通り社員を出勤させる企業が多いようです。教育現場でもオンライン授業に切り替わるところは多くはなかったようです。

日本はかつて、科学、技術大国として世界の先端を行っていました。インターネット時代の現代、ITの導入と活用では遅れをとっています。国民に情報が行き渡らない問題の根底にシステムの脆弱性があります。韓国や台湾は感染症を含めた高度なレベルでの国家的脅威に対して、ITの有効活用とシステム化を構築しています。

「東京目線」のコロナ対策とその限界

47都道府県では、感染者数、死者数に大きな開きがありますので、政府が日本全体をひとつの決定に従わせるには無理があります。都市部と地方の状況を考慮して対策を進めるべきでした。殆どの地方行政首長は政府の言いなりになってしまい、独自の判断を貫くことができず地方にも問題がありました。

『首都崩壊』で示した日本の未来図

あくまで小説ですが、ひとつの危機回避策の提案で首都移転と道州制を模索する人々を描いています。日本はこの20年間で阪神淡路大震災、東日本大震災と大きな震災に見舞われたが、何とか復旧、復興と進んで来られたのは、首都東京が被害から逃れられたからです。だが、今後予想される二つの大震災東京直下型地震と南海トラフ地震と、更に脅威が控えています。

「首都移転」と「道州制」はセットで考えるべきです。少子高齢化、地方の過疎化が著しく進み、東京一極集中は紛れもない事実。東京以外の大都市、大阪、名古屋、福岡などがそれぞれ核となって特徴ある地域を作り出せば、新しい日本の姿が見えてくるのではないでしょうか。

現在の都道府県は江戸から明治に変わったおよそ150年前の姿を踏襲しているのです。「戦後レジームからの脱却」ではなく「明治レジームからの脱却」が必要です。「今までの行きがかりにとらわれてはならない。しがらみを解かない限り、思い切った創造性の発揮など望めない」(ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈さんの言葉)

コロナは日本という国の在り方を考える良いきっかけとなりました。江戸時代に設計された国家の枠組みが変わっていない、進歩していないのです。そういう状況を新しい時代に合わせた形にしていく取り組みが今まさに求められています。

第2章 首都直下型地震と南海トラフ地震

阪神淡路大震災の「忘れぬ記憶」

著者自身、大きな被害を受けずに済みましたが、阪神淡路大震災を経験しました。震災から9年目の2004年『M8』(集英社)を書き上げました。日本の過去の地震を含む災害の歴史をかなり勉強し調べれば調べるほど、地震、津波、台風、洪水に何度も襲われ、日本は災害列島だということがわかりました。

定期的に日本列島を襲っているのです。『M8』(集英社)、『TSUNAMI』(2005年、集英社)、『東京大洪水』(2008年、集英社)、地震、津波、台風が日本を襲う「災害3部作」で、更に『富士山噴火』(2015年、集英社)があります。1707年、宝水大地震が起こった49日後に富士山が噴火しています。コロナ禍の今だからこそ、「次なる脅威」を意識し備えることが重要です。

首都直下型地震が起きた場合の甚大な被害

科学的に言えば、地震はいつか必ず「100%起きるもの」です。日本列島の地下では現在もプレートがぶつかり合い歪めを溜め、いつかは必ず放出されます。2004年、政府の地震調査委員会は南関東で30年以内にM6.7~7.2程度の大地震が発生する確立70%と試算。多くの人にとっては現実感のない「まさか自分の身に」という意識が強いものですが、必ず起こり得る可能性大です。

この地震が今東京に起こったら、国家予算を上回る程の経済被害を受け、東京が壊滅的な状況に陥ったら、日本はコロナ以上のダメージを受ける可能性があるのです。準備のために「必要経費」と考え政府は備えるべきです。

「何日の何時に、地震が起きる」とは言えないまでも、予知に関する研究は続け、常に最新技術で地震の起こる想定範囲を監視していれば、何らかの変化や予兆を見つけられるかもしれません。何百年、何千年と遠い先のことではないのです。

人間は日々の生活に追われると記憶は薄れます。コロナの問題而るに一時的に危機意識が高まってもすぐどこかへ消え去っていきます。それを前提に災害対策を考えていかなければなりません。

第3章 道州制と日本の新しい形

『首都崩壊』で描いた首都移転構想

日本が「東京一極集中」から脱却することが必要であると関心を持ったのは国内で議論が盛り上がった90年代前半です。阪神淡路大震災、東日本大震災が起こり、災害対応司令塔がある首都の重要性が再認識されました。被災地の復旧、復興は政府の置かれている首都東京が被災せず安全であってこそスムーズに行われます。

日本は自然災害の他にも少子高齢化、地方の過疎化、所得格差、労働力不足、人口減少、消滅可能性都市、増える空き家問題、医師や後継者不足などで、その多くが東京一極集中が関係しています。地方再生が叫ばれても、人は地方から東京へ集まるばかりなのです。

首都移転議論の歴史と経緯

昔は疫病や戦乱が続くと、あるいは天皇が変わると都を移す、遷都を行いました。首都移転論は古くからあり、1960年池田勇人内閣、1970年以降の早稲田大学の学者グループ「二十一世紀の日本研究会」の「北上京」遷都構想。1980年代から90年代、国民に広く届く形で遷都が議論されるようになりました。

1987年「新首都構想」によると、首都移転の形態は(1)遷都(2)首都機能の一部を移す分都(3)首都の範囲を東京周辺部に広げる展都(4)天災などの際、一時的な首都になる重都・・・等の他、これらを組み合わせた様々なケースが想定されています。(『朝日新聞』1987年9月3日)

1992年に国会等移転法が成立し、阪神淡路大震災後の1996年にはその改正法案が成立、各自治体が「新首都」に名乗りを上げていますが、当然東京は首都移転に反発しています。

2011年の東日本大震災で再び移転議論が活性化するようになりました。

東京及び隣接する神奈川県、埼玉県、千葉県(一都三県)の面積は、日本全体の約3.5%程度に過ぎませんが、ここに日本の人口の30%以上に相当する約3800万人が暮らしています。東京は面積45位0.58%に対し人口は約1400万人、10%以上です。

現在の日本の形では、過疎化、少子高齢化はさらに進み地方再生も期待できる要素がなく東京一極集中はますます進みます。都市部の人口比率がさらに高まることにより、日本の国家リスクはますます高まります。

明治時代から続く国家の枠組みを変える時期にきている

新しい日本の形に変えることが必要な一番の理由は災害です。人口と工業を地方分散させることです。コロナで日本は狭いようで広かったということがわかりました。感染状況の格差で示されています。

江戸時代の藩を県にした形が、戦後も続いています。100年以上前と現在の日本では、考え方、生活様式などあらゆることが違い、特に科学技術大国の発達は、交通、通信、運輸等、全く違う社会を生み出しています。そろそろ「現代に合った形の日本」を。

日本を「一道七州」に分ける道州制案

『首都崩壊』のなかでも主要なテーマとして取り上げています。現在の都道府県よりさらに広い一道七の行政区分を作り経済単位を大きくし自立を目指すと良いです。道州制区分の一案(2003年)として、1.北海道 2.東北州 3.関東州 4.中部州 5.近畿州 6.中国州 7.四国州 8.九州州です。

現在の日本は、首都・東京という突出した都市がひとつの国家並みの経済を生み出しているのです。47都道府県は今となってはあまりにも小さな単位です。(詳細については本書を一読下さい。)

何より大切なのは「自立心」

『首都感染』では、東京で感染が広がったウイルスを封じ込めるために、東京をロックダウンし、その代わり東京以外の県や地域は日常を保ち全力で封鎖された東京を助けたのです。たとえ首都・東京が麻痺しても周囲が高度な自治システムを生かし、国自体壊れないようにしています。

この体制を実現させるには、県単位ではなく県が複数集まった規模の自治体が必要となりそれが道州制です。大切なのは自立心で、政府がどうにかしてくれるではなく新しい道を自分たちで切り開いていくという意識です。東京が危機に陥れば地方が東京を助けるという気概です。

おわりに

この本の要旨である「首都移転と道州制」には、膨大な時間もお金もかかり、反対意見も多いでしょう。無責任な作家のたわごとと捉える人も多いと思います。企業に寿命があるように、国にも寿命があります。常に、時代の変化、世界の動きに敏感に生まれ変わっていかなければなりません。

*著者は多くの書籍を出筆されていますが、決して「予言の書」ではなく全て一連の繋がりのもとに書かれています。科学者として、研究者として、文筆家としてデーターに基づき述べてられています。

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