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日記

「復活の日」小松左京著(ハルキ文庫)を読んで、コロナ禍と重なります

投稿日:2020年9月13日 更新日:

『「復活の日」小松左京著 ハルキ文庫』は1998年第一刷発行、2008年第四刷発行とあり、私が求めたのは後者。単行本初出は「日本SFシリーズ1」(早川書房)昭和39年8月、書き下ろしで刊行とあり約60年も前のこと。このコロナ禍では是非読んでみるべきという話を小耳に挟み書店で探してみた。

数件回りやっと巡り会えたのが何気なく立ち寄った古本屋さん。そこで、ようやく手に入れることができた。読み始めると、「プロローグ」から止めておけば良かったと思うほど難解だった。多岐に渡る自然科学分野の専門用語。それでも一語一語かみしめながら読み進めると、SFとは言え単なる冒険ものではなく現実味を帯びてくる錯覚に陥る。

今現在を反映していると言われ、まるでドキュメンタリーの様に描かれている「ペスト」カミュ著が最近人気で、書店では特別コーナーまで設けられているほどだ。私は「復活の日」小松左京著 の方がスケールの大きさといい現実味を帯びた表現にしてもかなわないのではと思う。

プロローグ(1973年3月)

原子力潜水艦ネーレイド号が東京湾口浦賀水道にさしかかり物語の主人公「吉住」が気球鏡をあげて変貌した故郷を眺めるところから物語は展開していく。破滅は音もなく、何の前触れもなく突然降りかかってきた。この災厄をもたらしたのは「特定の個人」、「20世紀の政治体制のどこか一部」であることはわかっている。なにものが?なにゆえに?

第一部 災厄の年

「第一章 冬」から「第四章 夏」は、正に架空のMM八八菌に世界中の人々が感染して行く様子をリアルに描いている。それは今年のコロナ禍そのもの。勿論、小説の方が凄まじいのは言うまでもない。コロナウィルスならぬMM八八菌が巻き起こしていくSF物語。

秘密裏に生物化学兵器として開発されたMM八八菌を搭載した小型機が冬のアルプス山中に墜落する。やがて春を迎え、氷の中に潜んでいたMM八八菌は雪解け水と共に一筋の流れとなり沢を伝い川へ。瞬く間に爆発的な勢いで世界各地を襲い始める。

アメリカ、イギリス、日本、南極と地球のそれぞれのその時点では何の繋がりもない一つの点。その一つ一つの点が、時を経て瞬時に線から面へ、それも地球全体へと繋がりを見せていく。挙げ句の果てには当時約35億人といわれていた全人類が滅亡してしまった。それも地球上には存在不可能なはずの未知のMM八八菌によって。

ところが、奇跡的に南極大陸の観測者1万人は生き残っていた。全く奇跡的に。南極大陸はほかの大陸と海を隔てており、そして、極寒の地であることから他から隔離状態であった等の偶然が重なっていた。勿論、他の国々からの情報はしばらく無線で得てはいたが、全くの孤島(孤大陸)であったのが幸いしたのか。当時はインターネットではなく無線の時代。

小松左京さんは人類を滅亡させず、そこからの新しい地球人として希望を与えてくれている。

第二部 復活の日

MM八八菌による感染の可能性がなくなった時、人々は南極大陸から南アメリカ大陸へ船を運ばせその悲惨さを目の当たりにする。そこから始まる「復活の日」。僅か1万人の人類がそれからの新しい地球人として歩んでいく第一歩となって。

エピローグ 復活の日

北アメリカ大陸からひたすら南へ向かって歩く一人の男。南に行くと仲間がいることを信じて。「災厄の年」から9年目の年が明けようとする頃、北へ向かって船出した南極大陸に生存していた人々は南の氷に覆われた半島へ辿り着く。その後、数年間で300人の人間が上陸した。そこで一群の人々と一人の男との出会いがあった。6年前の水爆とMM八八細菌を奇跡的に逃れ生き延びることができた一人の男、吉住だった。

読後に

当時、米ソは核兵器、生物科学兵器、宇宙開発にしのぎを削っていた。地球上に人類は約35億人、約60年後の現在は倍の約70億人だが。

自然科学分野の地球科学、遺伝子工学、分子生化学、分子生物学等を理解し、一般の人々に知らせる筆の力に優れた「小松左京」さん。約60年前にそれを予想?予見?していた。

私はこの様に難解な学問の世界には全く縁がなく、学者さんたちを別世界の人々と考えていた。現在のコロナ禍生活の中で、新聞やラジオ・テレビニュース番組でしか知り得ない「新型コロナウィルス感染症」への対応。当時と前後関係が一致していて時代錯誤しそうになるのが恐ろしい程だ。「復活の日」の中で人類が滅亡しなかったのがせめてもの救い。

未だ猛威を振るい終息が見えない「新型コロナウィルス感染症」は、2019年12月、中国の武漢から野生のコウモリのウイルスが・・・?、北海道では2月上旬の「さっぽろ雪まつり」に訪れた中国人観光客から?とも言われて現在に至っている。「復活の日」のMM八八菌が人類を滅亡させてしまうほど恐ろしくはないものの、現在の世界情勢はあの頃とそれ程変わらない。社会主義国ソ連がロシアになってはいるものの。

主人公「吉住」は、「エピローグ 復活の日」の場面で、何故どのようにして北アメリカから南下できたのか。全くの偶然で生き残れることができたのか。MM八八菌はどこからやって来たのか。当時の一触即発の米ソ核兵器問題やMM八八菌のワクチンは?等が織り込まれた物語として展開されている。第一部の重厚さは本書を読まないと伝わらないと思う。本書を一読されることをお勧め致します。

小松左京:1931年大阪生まれ 京都大学文学部卒、73年「日本沈没」で日本推理作家協会賞、85年「首都消失」で日本SF大賞、著書多数

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